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ふくろう博士TOP > ふくろう博士のe講座 > 第264回 国語『オーディオブックの愉しみ』

ふくろう博士のe-講座
第264回 国語『オーディオブックの愉しみ』』
≫本 文 ≫宿 題

本文

 インターネット機器の恩恵や弊害を日々痛感する中で、目下大いにハマっているのが、Amazonの運営するオーディオブック、audibleだ。
 もともと始めたきっかけは、蔵書の収納に手を焼きつつも、老眼のこれ以上の進行を食い止めるため、タブレット版への移行には抵抗があったこと。イヤホン一つでできる「ながら読書」は、家事や移動、入浴など隙間時間の活用にもってこいだったことによる。
 当サービスは、月額1,500円のサブスク制で、20万冊以上が無料で聴き放題と、他社に比べ料金は高めだが、コンテンツの多さが魅力である。
 正直、ベストセラーや実用本だけを読むなら、どこを選んでも差はなかろうが、近現代の隠れた名作文学や古典作品、さらに洋書などのラインナップもある程度充実している点で、私にとってはオーディブルが最適だった。
 余談だが、お試しにあたり電話サポートで質問した際、かゆいところに手の届く至れり尽くせりの説明を受けられた。さらに、親元であるAmazonはコロナ以降、サポートへ直接電話がつながらなくなり、連絡が非常に煩雑になったことへの不満を漏らしたら、webサイトを通じて申し込むと、担当者が折り返しの電話をくれるための手続き方法まで詳しく教えてもらえた。
 ネットビジネスは顔の見えないシステムであり、何か困った時にやたらストレスのかかる場面が多いのだが、休日もサポート体制が整っているのは、安心できるポイントであった。

 さて、かようにスイスイと、私のオーディブル生活が始まった。
 最初はおすすめに出てくるままに、読みやすい本を次々と読み漁った。朗読者はこなれていて、聴きやすい。
 耳が慣れると、自分の話す速度、普段の読むペースに合わせ、2倍速から2.5倍速に上げてみる。じっくり味わう感じではなくなるが、標準の半分以下の時間で読み終わるのは楽である。日によって、長編1冊のこともあれば、3〜5冊ぐらい完読することも。軽いジャンルの本を目で追って読む場合と、ほぼ同じペースだ。
 続いては、平家物語の本格古典にトライ。元々が琵琶法師による口承文芸であるため、朗読との相性はかなりよく、章段ごとに邦楽の一節が鳴り響くのも耳に心地よい。
 ただし私の場合、職業的な性から、原文を音として純粋に聞き流せず、頭の中で自動翻訳装置が働いて、勝手に現代語訳に変換されてしまうため、必然的に古語を読む際は1.2〜1.5倍速くらいに落とすことになる。
 洋書においては、私の「英語耳」が弱いので、ゆっくり目にし、1倍〜0.8倍くらいで聴いている。知らない単語は少ないので、聞き取れるとほぼ意味も分かり、目で追うより集中力が持続できる。
 初めは速くして、耳を慣れさせてから徐々に速度を落としていくと、かなりクリアに聴こえてきて聞き取りやすくなるから、リスニング教材としてもおすすめだ。
 本によっては、教材仕様を意識したものもあり、フレーズごとに日本語→英語と区切って朗読していることも。ストーリーの流れを追う楽しみは損なわれるが、学習用と割り切れば申し分ない教材だろう。
 ただし、特に洋書は無料版の絶対数が限られ、有償版には入っていたとしても、朗読で購入しようとすると紙の本の何倍もしてしまうので、そこまで払って聴きたいか、必要かどうかの取捨選択も必要だ。
 さらに、一番のお薦めは、吉田修一の『国宝』。
 原作を紙の本で読み、映画も間もなく公開で手配済みだが、 audible版は5月の團菊祭で菊之助改め八代目尾上菊五郎を襲名した、当代随一の名優が熱演している。
 息遣い、声音、間の取り方、どれを取っても只者ではない語り口が絶品で、まるで生の舞台が目に浮かぶようである。

 いずれにしても、月に単行本1冊、文庫本2冊程度のラフな出費で、プロの声優や俳優の朗読した良書が聴き放題というのは、昔では考えられなかった夢のようなサービスである。
 Kindleのunlimitedは、読みたい本が壊滅的に対象になっておらず、読みたくもない本に時間を費やす理不尽さから、入会と解約を何度か繰り返した末、今はやめて、必要に応じて手元に置きたい本を購入することにしている。
 紙の本にこだわるのは、電子本ではパラパラめくることが不便なのと、後で知人に貸したりもできるからである。
 映画も、映画館で観るべき作品と、配信を待ってもいいというものを区分しているように、読んで残す本と聴く本とを併用できれば、収納やコストの大幅カットダウンになること請け合いである。
 気にはなっていたけれど、買うまでに至らなかった夥しい本の数々。
 明治大正の専門から少し離れた作家群や、プロレタリア文学、時代小説の類。古典作品や翻訳小説、さらには芥川、直木賞から最近では本屋大賞まで、結構なラインナップが揃っているので、空白の穴埋めにもってこいだ。

 とは言え、付き合い方を誤るとデメリットもあるので、注意は必要だ。
 ただ同然の感覚で、膨大なコンテンツが選び放題の時代だからこそ、あれもこれもと欲張りすぎては消費しきれずに、情報の波に溺れてしまう。
 若者の間では、周りと話を合わすために、作品全部を通して味わうのでなく、要約だけをかいつまんで調べたり、映像を早送りしたりして、知った気になって済ますケースも多いと聞く。それが「イマドキ」ということなのだろう。
 我々の時代よりも、映画や文学に限らず、漫画やアニメなどのサブカルなども、あまりにも見るべき作品が膨大で、次々と新しいものも出るため、短い一生の間では代表作に絞っても、全部を味わい尽くすのは到底かなわない。
 ならば、無理に周りについていこうとせず、ベストセラー小説や何十年か前のトレンディドラマを、リアルでなくオンデマンドで好きな時に見るのもいいだろう。時代を経た共感や楽しみ方がもてるのも、今の時代ならではのスタイルと言えるかもしれない。

 オーディオブックは、そんな時代のニーズに合った、エコで効率的なツールであるが、聴くことに慣れていない向きには、頭に入らない、素通りするといった声もある。
 中高年のラジオ世代がそうであったように、人の話に一心不乱に耳を傾けるためには、内容の面白さに加え、〈聴くという習慣=訓練〉が必要だからだ。
 TVからの情報に対しては、受け身であるため散漫になりやすく、「聴く」という意識が十全に働かせられていない。
 その点、本を読む、聴くという、目や、耳からだけの情報は、それだけ意識を研ぎ澄ませてないと意味が捉えにくいので、より主体的、能動的なコミュニケーションツールであると言える。
 忙しい現代人にとって、隙間時間にラジオや音楽を聴く感覚で、オーディオブックで読書が楽しめ、ついでに〈聴く力=コミュ力〉もアップしたら、一石三鳥くらいのお得感があるのではないだろうか。

 

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